世の中DXばやりで、どの会社でも「DXを強化する」方針が出されているかと思います。情報システム部門や経営企画・生産スタッフは、DXそのものが業務なので、大概は仕組みやシステム変更などの大きな革新の担当です。それはそれで進めなければ時代に取り残されるのですが、では、現場の作業の革新は誰がするのでしょうか?
現場のことは現場が一番知っているので、やはり現場が行うのが最も適切と感じます。とはいうものの、現場は日々の業務で忙しく、「革新」なんて考える時間もスキルもないという声もわかります。
ならば、仲間を募ってチームで取り組むことがその解決の第一歩になるでしょう。1人ではできないことも、チームのメンバーの智慧や得意なことで分担すれば、これまで知らなかった見方や考えを共有し、集合知としてアイディアを出したり膨らませて、実現することができるでしょう。QCサークルもこれとまったく同じです。
まず業務の目的・理由を確認する
ほとんどの業務は、「これまでやってきたこと」をそのままやっていると思いますが、この中身としては、外部(顧客や法律)や内部(他部門)からの要請等で「どうしてもやらなければならないこと」と、それ以外の「引継ぎで教わったことやマニュアル通りにやっていること」に分けられます。特に後者は、「以前は必要だったが今は不要」の可能性があり、前者・後者ともに、新人教育のタイミングなどで、業務の目的・理由を定期的に確認・理解しておきます。一人で調べるのは大変なので、チームで分担すれば同時並行で行えます。その業務をメンバーに理解してもらう良いきっかけにもなるでしょう。
やりたいこと・ありたい姿を妄想する
業務の目的が判ったら、それはどうあればいいのか、そして手段・方法としてどうやってミスなく手間なく実行できるかを考えます。自分たちでは判らない、意見が出ない、時は、上司や詳しい方を巻き込んで妄想すればいいでしょう。相談された方も、業務に直接関係なくても、真面目な雑談は楽しい時間です。
現状を事実(データ)で把握する
今の状態を把握する、ここに、デジタルのチカラが使えます。DX前はデータを取得したり解析するのは、プロの知見やコストがかかったりと、ものすごく大変でしたが、最近はこのハードルがかなり下がり、現場の方でも扱えるようになってきました。
QCサークルの取り組み事例を見てても、とても参考になります。例えば、
事例①材料の輸送時の温度変化を知りたい
→品質管理部門がもっていた温度ロガーを活用
事例②加工不具合が起きたときの瞬間の画像を見たい
→使っていない車用ドライブレコーダーを活用
など、身近な機器で工夫しています。
注意点として、「できることから始める」というのはとても良いのですが、思い込みですぐに「対策」まで行うと、効果がなかったり、後で思わぬ副作用(弊害)が発生することもあります。事実をしっかり把握し、原因を検証してから対策しましょう。
複数のデータを突き合わせるときの工夫
異常時のデータはとれたものの、それを解析するときには、実はかなり手間がかかります。例えば上記①、②の事例では、
①’温度が大きく変化していることが判ったがこの時何がおきたのだろう?
②’録画データから、その瞬間の画像を探すのがけっこう大変
が直面します。
このようにビッグデータから異常値を抜き出して、メカニズムを考察するときは、
・複数のデータを突き合わせる。そのためには、時刻やトリガーなどデータを一致させる基準に工夫する。
ことが必要です。
上記の例では、
①→正確な時刻も同時に記録し、車両の運行データとの整合をとる、輸送環境も録画しておく
②→パトランプの信号をトリガーにする、あるいはパトランプの画像も同時に記録する
などの工夫があります。
場合によっては、数多くのデータを突き合わせることが予想されるなら、基準や数値データの変数名を統一する等、一工夫しこんでおくと後々解析がやりやすくなります。
なんでもできて有用なIoTデバイス=ラズベリーパイ(ラズパイ・Raspberry Pi)
ラズベリーパイ(通称ラズパイ)は超小型のパソコンです。いろいろなシリーズがありますが、最も使いやすいモデル(pi4)で約1万円で、これにマイクロSDカードとUSB-TypeC電源(モバイルバッテリー可)をつければ動作します。
WiFiやBluetoothを内蔵し、インターネットにもつながり、USB-Aのポートや、I/Oポートもあるので、必要なUSBデバイスやセンサーもつなげることができます。ソフトウエアは世界中で開発・公開されており、ほとんどが無料で使えます。
キーボードやディスプレイはセットアップ時には必要ですが、インターネット接続までできれば、リモートデスクトップでつながり、なくても動作します。そのため、小型でインテリジェントなIoTデバイス(ネットにつながるモノコトデバイス)になります。
ラズパイを使うと、上記事例の工夫が1台のラズパイで実現できます。
①→電源が入ると自動でポケットWiFI経由でインターネットに接続し、正確な時刻にする。温度センサとUSBカメラをラズパイに接続し、1分間に1回USBメモリに温度と静止画を記録する。さらに1時間に1回、あるいは、数値が異常値になったらデータをメールで送る。
②→WiFIで社内LANに接続する、USBカメラを2台つなぎ、1台は動画を高速モードで撮影、もう1台は通常モードで撮影し、大容量USBメモリに記録する。リモートデスクトップでラズパイにLoginし、開始/終了する。終了後録画データからパトランプが点いた時刻をAIで探し、その時刻の高速動画を確認する。
「やりたいこと」のプログラムは、ネットで公開されているモジュールを組み合わせて実現できます。組み合わせるときは、OS(Linux)とプログラム言語(Python)の知識が少々必要ですが、これも、AIのChat-GPTの出現によってずいぶんハードルが下がりました。やりたいことや,わからないことをCha-GPT先生に聞けば親切に答えてくれます。
次回のブログでその事例を紹介します。
現場の方でも、経験のある方に指導してもらい、スキルが上がれば自作できるでしょう。
なお、ラズパイは汎用性が高い分、冗長なところやソフトのUPDATEが必要になることがあります。恒久的にデータ取得するなら、専用機を設置し、ラズパイは別の現状把握に使うという暫定的な使い方が向いていると感じます。
ご不明な点・ご意見等コメント大歓迎です。
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